英語の音いろ

映画、TVドラマ、洋書などの英語を、文法や構文そしてニュアンスの視点から解説します。

タグ:the(実在すると仮定して付けるthe)


再び同じ本から、前回と同じ「典型的なものに付ける the」を。





以下は、普段は物静かなスイス人が、集団では賑やかになることについての文章です。ここだけを読むと批判のように読めるかもしれませんがそんなことはなく、これは英語らしいユーモアで、この本では全編を通して著者のスイスとスイス人への愛着が感じられます。今回も the に注意してみてください。



Share a carriage with almost any Swiss group and you're certain to have a headache by the end, or want to strangle the woman with the chicken laugh, or both. Perhaps that's why SBB separates them out, usually putting groups in the last carriage of a train. It's practical but it also saves lives.

Diccon Bewes, Swiss Watching: Inside the Land of Milk and Money, p. 244


<解説>







Share a carriage with almost any Swiss group and you're certain to have a headache by the end, or want to strangle the woman with the chicken laugh, or both. Perhaps that's why SBB separates them out, usually putting groups in the last carriage of a train. It's practical but it also saves lives.

「列車でスイス人のグループの乗客と同じ車両になると、ほぼ必ず最後には頭が痛くなるか、そのグループの中のニワトリの鳴き声のような笑い声を立てる女性の首を絞めたくなるかのどちらか、またはその両方の状態になります。おそらくこのためにSBB(スイス国鉄)は、多くの場合、グループを最後尾の車両に隔離するのでしょう。グループを隔離するのは、運用上の理由もありますが、人命を救う行為でもあるのです」 

the woman with the chicken laugh(ニワトリの鳴き声のような笑い声を立てる女性)に定冠詞の the が付けられています。the は、すでに出てきたものに付けるのが基本の使い方ですが、前回のエントリーの文と同様、この文章の場合も、この女性出てくるのはこれが初めてです。

これはやはり、列車に乗っているグループの乗客の中に、このようなけたたましい笑い声を立てる人がいることが十分に一般的で、多くの人が状況を簡単にイメージできることによります。このため、著者は、そのような人がいると想定して the を使っています。言い換えると、車内の「典型的な図」に必ず1人はいる、けたたましい笑い声の人を指して the が付けられています。

ちなみに冒頭の文で、命令文の後にand が続くのは、中学校で習う「~しなさい。そうすれば~できますよ」という文と同じ用法です。また、第2文の usually putting ~ の部分は分詞構文です。


前回と同じ、イギリス人ライターによるスイスを紹介する本から。





SBB(スイス国鉄)は、人々ができるだけ車より鉄道を使うように上手に誘導していることについて書かれた文章です。the の使い方に注意してみてください。



[SBB] entices people off the road and into trains. Going to the Madonna concert in Zurich or the cup final in Bern? Then your ticket includes the train trip there, so no need to take the car. What a great idea that is!  

Diccon Bewes, Swiss Watching: Inside the Land of Milk and Money, p. 243


解説>







[SBB] entices people off the road and into trains. Going to the Madonna concert in Zurich or the cup final in Bern? Then your ticket includes the train trip there, so no need to take the car. What a great idea that is!

「SBB(スイス国鉄)は、人々が車ではなく鉄道を使うように仕向けます。マドンナのコンサートを聴きにチューリッヒへ? それともサッカーの決勝戦を観にベルンへ? どちらにしても、チケットにはそこに行くための列車も含まれています。だから車を使う必要はありません。(コンサートチケットやスポーツ観戦のチケットに列車のチケットも含めるのは)なんて素晴らしいアイデアなのでしょう!」 

Madonna concert(マドンナのコンサート)と cup final(サッカーの決勝戦)に、それぞれ定冠詞の the が付けられています。the は、すでに出てきたものに付けるのが基本の使い方ですが、この文章の場合、Madonna concert も cup final も、出てくるのはこれが初めてです。ではなぜ the が使われているのでしょうか。

スイスに住んでいる人の場合、「チューリッヒのマドンナのコンサートに行く」ことも、「ベルンでのサッカーの決勝戦を観に行く」ことも、十分に一般的な行動です。たとえ自分は行かなくても簡単にイメージできるような、多くの人がする行動と言えるでしょう。

英語では、「十分に一般的なこと」の場合、存在していると想定して、あるいは、起こると想定して the を使うことがあります。読者が上の文章を読んだ時点で、マドンナのコンサートがチューリッヒであるかどうか、ベルンでサッカーの決勝戦があるかどうかは著者にも全く分かりませんが、十分に一般的なことなので、勝手にあると想定して the を使っています。

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