英語の音いろ

映画、TVドラマ、洋書などの英語を、文法や構文そしてニュアンスの視点から解説します。

タグ:the(代表させるthe)


経済史についてのイギリスのドキュメンタリー『マネーの進化史』から。


The Ascent of Money [Import anglais]
Niall Ferguson
2008-12-15

(日本国内用の通常のDVDプレイヤーでは再生できない可能性があります。ご注意ください)


以下は、保険や年金という仕組みが作られるようになった過程についての一節です。文中の life's losers は「突然の病気やケガで収入を失ってしまった人々」を指しています。昔は保険や社会保障の仕組みが不十分だったため、不慮の病気やケガのために貧困に陥ってしまう人が多かったことが、以下の文章の背景になっています。



Yet by the 1880s, people began to feel that life’s losers somehow deserved better. The seed was planted of an entirely new approach to risk, a seed that would ultimately sprout into the modern welfare state.

Niall Ferguson, The Ascent of Money



<語句>
yet は「しかし」、deserve better で「もっとまともな生活をするに値する」、seed は「種」、entirely は「完全に」、ultimately は「究極的には、最終的に」、sprout into ~ で「成長して~になる」、welfare state は「福祉国家」。


<解説>







The seed was planted of an entirely new approach to risk, a seed that would ultimately sprout into the modern welfare state.

of an entirely new approach to risk の部分は、直前の動詞を飛び越えて主語である The seed を修飾しています。
seed に The がつけられているのは of ~ で特定されているため。the seed of ~ で「~の種」。形容詞的に働く語句が動詞の後ろから主語を修飾するのは文法的には例外ですが、主語を短くしてスッキリさせる等の理由で、主語の一部を構成する形容詞句が動詞の後ろに置かれることは、実際の英文では頻繁に起こります。この文では、seed に The がつけられていることが、後ろに形容詞的な語句が出てくることを予想させるヒントになっています。

be planted は plant O(Oを植える、Oをまく)の受動態。a seed 以下は文の主語と同格。would は「過去から見た未来」を表す用法で、この用法の would は
ナレーション等でよく使われます。the modern welfare state における the は特殊な用法(代表させる the)で、the ~ で「~というもの」の意。


「しかし1880年代までには人々は、
突然の病気やケガで収入を失ってしまった人々がもっとまともな生活を送れるような何らかの仕組みがあるべきだと思うようになった。リスクに対する、それまでとは全く異なる備え方の種がまかれたのだった。そしてこの種こそが、最終的には現代の福祉国家のシステムへと成長していくのだった」


ミスター・ビーンで知られるローワン・アトキンソン主演のコメディ映画『ジョニー・イングリッシュ』から。


ジョニー・イングリッシュ [Blu-ray]
ローワン・アトキンソン
KADOKAWA / 角川書店
2018-08-24



以下は、前回の記事のセリフのすぐ後に続くセリフで、引き続き秘書の机の上にあるペンのことを言っています。以下のセリフにおいて、イングリッシュがペンの頭の部分を押しながら click it twice と言った瞬間にペンから弾丸のようなものが発射され、それが秘書に当たって秘書は倒れてしまいます。




Completely innocent to the untrained eye, but click it twice...

Johnny English (00:07:28)



解説>







Completely innocent to the untrained eye, but

「訓練を積んでいない目には完全に普通だけれども」

つまり

訓練を積んでいない人にはごく普通のペンに見えるけれども

the untrained eye(訓練を積んでいない)の the は「代表させる the」の用法です。「代表させる the」は、このように、「形容詞+名詞」の組み合わせにも使えます。

「代表させる the」の典型例は「play the + 楽器」。例えば、play the piano(ピアノを弾く)における the piano は「ピアノというもの」「ピアノという楽器」という意味で、世界中に無数に存在するピアノの個々の違いは考慮されません。



click it twice...

続くはずだったのは、and it shoots ~ のような語句。

click it twice (and it shoots ~ )

「2回押すと(このペンは~を発射する)」

click it twice は命令文で、and は「そうすると」という意味。中学校で習う「命令文+ and ~」(~しなさい。そうすれば~)という文と同じパターンです。




人体の様々な器官や細胞がどのように機能しているのかを探るBBCのドキュメンタリー『inside the Human Body』から。

Inside the Human Body
Michael Mosley
2011-05-30

(イギリスのDVDは、日本国内用の通常のDVDプレイヤーでは再生できません。ご注意ください)


以下は、瞬発力が求められる場面で筋肉がどのように働くのかを、牛を避ける闘牛士の動きを例として説明する場面の一節です。

recortes は闘牛の1種ですが、牛を殺してしまう一般的な闘牛と異なり、牛には危害を加えず、牛の攻撃を、武器を持たない闘牛士がいかに華麗にかわすかが注目される競技とのことです。

以下の文章が読まれたすぐ後に、実際の激しい闘牛の場面が映ります。



In this form of bullfighting, known as recortes, it's the men who risk their lives - the bulls are unharmed. But no less bad-tempered.

inside the Human Body, (Episode 4, 00:14:16)




<解説>







In this form of bullfighting, known as recortes, it's the men who risk their lives - the bulls are unharmed. But no less bad-tempered.

it's the men who risk their lives は強調構文。牛を殺してしまう一般的な闘牛との対照をはっきりさせるために強調構文が使われています。

「recortes という名で知られるこの種の闘牛では、命を危険に晒すのは(牛ではなく)人間の方だ」



the bulls are unharmed. But no less bad-tempered.

ナレーターが But no less bad-tempered. の部分を強調して言っているために、字幕ではこのように前半と後半がそれぞれ独立して書かれていますが、文法的にはひと続きの文です。


no less ~ の no は、less の度合いが「ゼロ」であること、つまり「~である度合いが全く小さくなっていない」ことを示すので、no less bad-tempered は、「全く劣らずに bad-tempered である」「bad-tempered であることには全く変わりがない」という意味になります。

「牛が傷つけられることはない。しかし、牛の気性が荒いことは(普通の闘牛の場合と)全く変わりがない」


タイトル『inside the Human Body』の the は、「代表させる」用法の the。the human body で「人体(というもの)」という意味です。



再び、作曲家ヨハネス・ブラームスの手紙のコレクションに解説を加えた本、Johannes Brahms: Life and Letters から。

Johannes Brahms: Life and Letters
Johannes Brahms
Oxford Univ Pr on Demand
2001-09-27



以下は、ブラームスがどんな楽器の曲をよく書いたかについての、編者による解説の一部です。




Brahms's entire creative life follows a pattern of writing almost exclusively for musical combinations he is personally familiar with: [...] music featuring the cello or horn, both of which instruments he had played as a child. 

Johannes Brahms: Life and Letters, p. 419



解説>







Brahms's entire creative life follows a pattern of writing almost exclusively for musical combinations he is personally familiar with: [...] music featuring the cello or horn, both of which instruments he had played as a child.

both of which instruments he had played as a child の部分の構造がよく分からない場合には、which の品詞は何か、そしてwhich の節がどこから始まるのかに注意してみてください。







which は the chello or horn を先行詞とする関係形容詞で instruments を修飾しています。which がまとめる関係詞節は both から始まります。

both of which instruments he had played as a child の部分は、he had played both of these instruments as a child と同じような意味になります。

Brahms's entire creative life follows a pattern of writing almost exclusively for musical combinations he is personally familiar with: [...] music featuring the cello or horn, both of which instruments he had played as a child.

「ブラームスは自身の作曲家人生全体にわたって、自分自身が直接よく知っている楽器を組み合わせた曲のみをほとんど常に作曲した。[...] (例えば)チェロやホルンが活躍する曲。彼はこの2つの楽器の両方を子供時代に自ら演奏していた」


the cello or horn の the は「ものや人を代表させる the」で、くどく言えば「チェロという楽器やホルンという楽器」という意味になります。特定のチェロやホルンを指している
わけではありません。

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