英語の音いろ

映画、TVドラマ、洋書などの英語を、文法や構文そしてニュアンスの視点から解説します。

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仕事でフランスに住むことになったイギリス人の著者がフランスの文化をユーモア溢れる筆致で紹介する本から。

A Certain Je Ne Sais Quoi
Charles Timoney
Particular Books
2009-09-22



以下は、ブーレット・ダヴェーヌ(boulette d'Avesnes)というフランスのチーズについての一節です
。ものすごく風味の強いチーズだそうです。

文の構造だけでなく、cheese trolley(フレンチレストランで使われるチーズのワゴン) に the が使われている理由も考えてみてください。



When the cheese trolley arrives next time you have a decent meal in a French restaurant, look closely and, if you are lucky, you may spot, lurking near the back, a boulette d'Avesnes. [...] It is generally the one hiding near the back, trying to look innocent.  

Charles Timoney, A Certain Je Ne Sais Quoi, p.191



解説>







When the cheese trolley arrives next time you have a decent meal in a French restaurant, look closely

「今度フレンチレストランできちんとした食事をするとき、チーズのワゴンが運ばれてきたら、注意深く観察してみてください」

著者は「フランスのレストランでフルコースの食事をすると、通常、終わりの方でチーズのワゴンが運ばれてくる」ということを前提としてこの文を書いています。この前提があるために、コースの一部として食事の最後の方で運ばれてくるはずのチーズのワゴンを指して、cheese trolley に the がつけられています。


and, if you are lucky, you may spot, lurking near the back, a boulette d'Avesnes.

lurking near the back はC、a boulette d'Avesnes がO。前回と同様、主語以下は VCO で、VOC(第5文型)の倒置です。spot O ~ing で「Oが~しているのを見つける」。

「そうすると、運が良ければ、ブーレット・ダヴェーヌというチーズがワゴンの奥の方にひそんでいるのが見えるかもしれません」

ちなみに分詞構文では、分詞構文の意味上の主語は主節の主語と一致しなければならないので、lurking ~ の部分を分詞構文ととらえることはできません。


It is generally the one hiding near the back, trying to look innocent.

たいていの場合、さり気なさを装って(普通の無難なチーズのようなふりをして)ワゴンの奥の方に隠れているチーズがブーレット・ダヴェーヌです

trying ~ は hiding を修飾する分詞構文です。



ミスター・ビーンで知られるローワン・アトキンソン主演のコメディ映画『ジョニー・イングリッシュ』から。


ジョニー・イングリッシュ [Blu-ray]
ローワン・アトキンソン
KADOKAWA / 角川書店
2018-08-24



以下は、前回の記事のセリフのすぐ後に続くセリフで、引き続き秘書の机の上にあるペンのことを言っています。以下のセリフにおいて、イングリッシュがペンの頭の部分を押しながら click it twice と言った瞬間にペンから弾丸のようなものが発射され、それが秘書に当たって秘書は倒れてしまいます。




Completely innocent to the untrained eye, but click it twice...

Johnny English (00:07:28)



解説>







Completely innocent to the untrained eye, but

「訓練を積んでいない目には完全に普通だけれども」

つまり

訓練を積んでいない人にはごく普通のペンに見えるけれども

the untrained eye(訓練を積んでいない)の the は「代表させる the」の用法です。「代表させる the」は、このように、「形容詞+名詞」の組み合わせにも使えます。

「代表させる the」の典型例は「play the + 楽器」。例えば、play the piano(ピアノを弾く)における the piano は「ピアノというもの」「ピアノという楽器」という意味で、世界中に無数に存在するピアノの個々の違いは考慮されません。



click it twice...

続くはずだったのは、and it shoots ~ のような語句。

click it twice (and it shoots ~ )

「2回押すと(このペンは~を発射する)」

click it twice は命令文で、and は「そうすると」という意味。中学校で習う「命令文+ and ~」(~しなさい。そうすれば~)という文と同じパターンです。




作曲家ヨハネス・ブラームスの手紙のコレクションに解説を加えた本『Johannes Brahms: Life and Letters』から。


Johannes Brahms: Life and Letters
Johannes Brahms
Oxford Univ Pr on Demand
2001-09-27



以下は、1873年にブラームスがミュンヘンの国王ルートビッヒ2世から勲章を授けられたことについての編者の文章です。




The honour was the more surprising as Brahms's music was virtually ignored in Munich at that time; [...]. 

Johannes Brahms: Life and Letters, p. 459



解説>







The honour was the more surprising as Brahms's music was virtually ignored in Munich at that time

the more surprising で the が使われているのは、「『その分だけ』もっと」と、more の度合いが特定されているからです。

「当時ミュンヘンではブラームスの音楽は事実上無視されていたために、この勲章は、その分より一層意外であった」


受験で出てくる 「all the + 比較級」も同じ用法で、all は「その分だけより一層」を強調しています。




人体の様々な器官や細胞がどのように機能しているのかを探るBBCのドキュメンタリー『inside the Human Body』から。

Inside the Human Body
Michael Mosley
2011-05-30

(イギリスのDVDは、日本国内用の通常のDVDプレイヤーでは再生できません。ご注意ください)


以下は、瞬発力が求められる場面で筋肉がどのように働くのかを、牛を避ける闘牛士の動きを例として説明する場面の一節です。

recortes は闘牛の1種ですが、牛を殺してしまう一般的な闘牛と異なり、牛には危害を加えず、牛の攻撃を、武器を持たない闘牛士がいかに華麗にかわすかが注目される競技とのことです。

以下の文章が読まれたすぐ後に、実際の激しい闘牛の場面が映ります。



In this form of bullfighting, known as recortes, it's the men who risk their lives - the bulls are unharmed. But no less bad-tempered.

inside the Human Body, (Episode 4, 00:14:16)




<解説>







In this form of bullfighting, known as recortes, it's the men who risk their lives - the bulls are unharmed. But no less bad-tempered.

it's the men who risk their lives は強調構文。牛を殺してしまう一般的な闘牛との対照をはっきりさせるために強調構文が使われています。

「recortes という名で知られるこの種の闘牛では、命を危険に晒すのは(牛ではなく)人間の方だ」



the bulls are unharmed. But no less bad-tempered.

ナレーターが But no less bad-tempered. の部分を強調して言っているために、字幕ではこのように前半と後半がそれぞれ独立して書かれていますが、文法的にはひと続きの文です。


no less ~ の no は、less の度合いが「ゼロ」であること、つまり「~である度合いが全く小さくなっていない」ことを示すので、no less bad-tempered は、「全く劣らずに bad-tempered である」「bad-tempered であることには全く変わりがない」という意味になります。

「牛が傷つけられることはない。しかし、牛の気性が荒いことは(普通の闘牛の場合と)全く変わりがない」


タイトル『inside the Human Body』の the は、「代表させる」用法の the。the human body で「人体(というもの)」という意味です。



イギリスのサッカー選手ウェイン・ルーニーがプレミアリーグでの10年を振り返る本『Wayne Rooney: My Decade in the Premier League』から。


Wayne Rooney: My Decade in the Premier League
Wayne Rooney
HarperCollins Publishers
2012-09-01



以下は、選手として有名になると、外出した際にどうしても注目されてしまうことについて述べる文章です。



One afternoon, [...] I go to the garage to fill the car up. As I put the petrol in, a bloke pulls up next to me and winds his window down.
  'Here, Wayne, you fill up your own car yourself, do you?'
  Like anyone else is going to do it.

Wayne Rooney: My Decade in the Premier League, ペーパーバック版 p. 45
(斜体と最後の2文のインデントは原文の通りです)



<解説>







One afternoon, [...] I go to the garage to fill the car up. As I put the petrol in, a bloke pulls up next to me and winds his window down.

現在形の動詞が使われていますが、述べられているのは過去のことです。これは「the historic present」と呼ばれる現在形の使い方で、臨場感を出したいときなどには、過去の一連の出来事を現在形で説明することがあります。

the garage は、「自分がいつも行く近所のガソリンスタンド」のこと。自分が普段の買い物をするスーパーなどには、たとえ聞き手がその店を知らなくても the shop のように the を付けます。the garage の the も同じ用法です。

また、冷蔵庫など、どの家にもだいたい1台あるような「家の備品」にも the が付けられます。the car の the も同じ用法で、「自分の家の車」のことです。


「ある日の午後、家の車にガソリンを入れようと、いつものガソリンスタンドに行った。ガソリンを入れていたら、男が私の隣に車を止めて窓を下ろした」



'Here, Wayne, you fill up your own car yourself, do you?'

中学校で習う付加疑問文では、

You fill up your own car yourself, don't you?
You don't fill up your own car yourself, do you?

のように前後で肯定と否定が逆になっていますが、
ここではどちらも肯定になっています。このような付加疑問文('same way' question tags)も実際にはよくあり、『Practical English Usage』では、



「興味、驚き、心配などのリアクションを表すのに使われる (p. 472)」と説明されています。


'Here, Wayne, you fill up your own car yourself, do you?'

「ウェインじゃないか。君は自らガソリンを入れるのか!?」



Like anyone else is going to do it.

この like は as if の意味です。

直訳すると「まるで誰か他の人が私の車にガソリンを入れてくれるかのようだ」となるこの文は、「誰か他の人が私の車にガソリンを入れてくれるわけはない(だから、当然、私が自分でやるに決まっている)」という意味になります。


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