英語の音いろ

映画、TVドラマ、洋書などの英語を、文法や構文そしてニュアンスの視点から解説します。

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イギリスの文学批評家、文化理論家テリー・イーグルトンによる On Evil(2010年)から。


On Evil (English Edition)
Eagleton, Terry
Yale University Press
2010-04-06






以下は、子供が evil であり得るかを議論する文章の一部です。evil は「邪悪さ」という意味ですが、著者はキリスト教の文脈における evil を考察しているので、下の解説では evil は日本語に訳さずにそのままにしています。

enter into purchase agreements は「購買契約を結ぶ」。



Most of us, [...], recognise that small children can no more be evil than get divorced or enter into purchase agreements.

Terry Eagleton, On Evil, p. 5



<解説>







Most of us, [...], recognise that small children can no more be evil than get divorced or enter into purchase agreements.

that節の内部では、

① Small children can be evil.

② Small children can get divorced or enter into purchase agreements.

という2つの文が比較されています。no more の no は、more の度合いがゼロであることを示します。従って、「
Small children can be evil.」が成り立つ度合いと「Small children can get divorced or enter into purchase agreements.」が成り立つ度合いが同じであることになります。後者はあり得ないので前者もあり得ない、というのが that節の主張です。

「小さな子供が離婚したり購買契約を結んだりできる度合いと全く同じ程度にしか、小さな子供は evil であることができない、と我々のほとんどは認識している」


「小さな子供が離婚したり購買契約を結んだりできないのと同様に、小さな子供は evil ではあり得ない、と我々のほとんどは認識している」


人体の様々な器官や細胞がどのように機能しているのかを探るBBCのドキュメンタリー『inside the Human Body』から。

Inside the Human Body
Michael Mosley
2011-05-30

(イギリスのDVDは、日本国内用の通常のDVDプレイヤーでは再生できません。ご注意ください)


以下は、瞬発力が求められる場面で筋肉がどのように働くのかを、牛を避ける闘牛士の動きを例として説明する場面の一節です。

recortes は闘牛の1種ですが、牛を殺してしまう一般的な闘牛と異なり、牛には危害を加えず、牛の攻撃を、武器を持たない闘牛士がいかに華麗にかわすかが注目される競技とのことです。

以下の文章が読まれたすぐ後に、実際の激しい闘牛の場面が映ります。



In this form of bullfighting, known as recortes, it's the men who risk their lives - the bulls are unharmed. But no less bad-tempered.

inside the Human Body, (Episode 4, 00:14:16)




<解説>







In this form of bullfighting, known as recortes, it's the men who risk their lives - the bulls are unharmed. But no less bad-tempered.

it's the men who risk their lives は強調構文。牛を殺してしまう一般的な闘牛との対照をはっきりさせるために強調構文が使われています。

「recortes という名で知られるこの種の闘牛では、命を危険に晒すのは(牛ではなく)人間の方だ」



the bulls are unharmed. But no less bad-tempered.

ナレーターが But no less bad-tempered. の部分を強調して言っているために、字幕ではこのように前半と後半がそれぞれ独立して書かれていますが、文法的にはひと続きの文です。


no less ~ の no は、less の度合いが「ゼロ」であること、つまり「~である度合いが全く小さくなっていない」ことを示すので、no less bad-tempered は、「全く劣らずに bad-tempered である」「bad-tempered であることには全く変わりがない」という意味になります。

「牛が傷つけられることはない。しかし、牛の気性が荒いことは(普通の闘牛の場合と)全く変わりがない」


タイトル『inside the Human Body』の the は、「代表させる」用法の the。the human body で「人体(というもの)」という意味です。


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