英語の音いろ

映画、TVドラマ、洋書などの英語を、文法や構文そしてニュアンスの視点から解説します。

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オスカー・ワイルドの小説『ドリアン・グレイの肖像』から。


The Picture of Dorian Gray (Penguin Classics)
Wilde, Oscar
Penguin Classics
2003-02-01



以下は、貴族の青年ドリアンが退廃的な思想に染まりながらも、知性を捨ててしまったわけではないことを示す一節です。

arrest O で「Oを止める」、creed は「教義」、inn は「宿」、sojourn は「滞在」。



But he never fell into the error of arresting his intellectual development by any formal acceptance of creed or system, or of mistaking, for a house in which to live, an inn that is but suitable for the sojourn of a night.  

Oscar Wilde, The Picture of Dorian Gray, p. 128


<解説>







But he never fell into the error of arresting his intellectual development by any formal acceptance of creed or system, or of mistaking, for a house in which to live, an inn that is but suitable for the sojourn of a night.

全体の構造は、he never fell into the error of arresting ~ or of mistaking ~ .。or は、of arresting ~ と of mistaking ~ を結んでいます。

mistaking, for a house in which to live, an inn that is but suitable for the sojourn of a night においては、an inn that is ~ の部分が mistaking の目的語。これは mistake O for ~(Oを~と間違える)のOを後ろに置いたもので、VとOの間に副詞的な語句(M)が挿入されているVMOという形です。

that is but suitable の but は only の意味です。


「しかし彼は、教義や思想体系を本格的に受け入れることによって自身の知的成長を止めてしまうという過ちを犯すことは決してなかった。一夜の滞在にのみ適した宿を自分の住み家と間違えるような過ちは犯さなかったのである」


イギリスの文学批評家、文化理論家テリー・イーグルトンによる Hope without Optimism(2015年)から。現代において、現実を見つめながら希望を持つということはどのようなことなのかを考察する本です。


Hope Without Optimism
Terry Eagleton
Yale University Press
2017-06-02



以下は、現代社会において hope という語が持っているかもしれない、必ずしも肯定的とは言えないニュアンスについての1文です。slender は「細い」、reed は「茎の中が空洞になっている葦などの植物」、scanty は「乏しい/ないに等しい」。



Hope is a slender reed, a castle in the air, agreeable company but a poor guide, fine sauce but scanty food.

Terry Eagleton, Hope without Optimism, p. 39



<解説>







Hope is a slender reed, a castle in the air, agreeable company but a poor guide, fine sauce but scanty food.

この文では、SVC のCとして

a slender reed
a castle in the air
agreeable company but a poor guide
fine sauce but scanty food

という4つの名詞が並列されています。通常、複数のものを並列する場合には「A, B, C and D」のように and が使われますが、ここでは1つの内容を異なる表現で言い換えているだけなので and は使われていません。

slender reed(細い葦)は「頼りにならないもの」を表す表現で、castle in the air(空中の城)も「砂上の楼閣」といった意味の熟語です。company はここでは「そばにいて一緒に時間を過ごす人」の意。

「hope とは、細い葦(=頼りにならないもの)であり、砂上の楼閣であり、一緒にいて楽しいが案内人としては役に立たない人であり、素晴らしいソースであるがお腹を満たさないものである」


イギリスの文学批評家、文化理論家テリー・イーグルトンによる Hope without Optimism(2015年)から。現代において、現実を見つめながら希望を持つということはどのようなことなのかを考察する本です。


Hope Without Optimism
Terry Eagleton
Yale University Press
2017-06-02



チェコの作家フランツ・カフカ(1883-1924)は、ヨーロッパの状況を憂える友人に「我々が見知っているこの世界を超越した hope というものは存在するのだろうか」と尋ねられた際に、「たくさん、いや、無限に存在するといっていい。だが我々にとって存在するわけではない」という、解釈の余地を残す答え方をしたそうです。以下は、この答えを受けての著者イーグルトンの(少しユーモアを込めた)推測です。

he はカフカのこと、off と dyspeptic はともに「機嫌の悪い」、dire は「ひどい」



Perhaps he meant that the universe as we know it is a bad mood of God's, created on an off day, and that had his temper at the time been less dyspeptic, things on earth might have been considerably less dire.

Terry Eagleton, Hope without Optimism, p. 73



<解説>







Perhaps he meant that the universe as we know it is a bad mood of God's, created on an off day, and that had his temper at the time been less dyspeptic, things on earth might have been considerably less dire.

全体の骨格は、he meant that S V and that S V.。and は2つの that節をつないでいます。


the universe as we know it is a bad mood of God's, created on an off day

「名詞 as S knows it」で「Sが知っているような名詞」。created ~ は分詞構文。

「我々が知っている世界とは、神の機嫌が悪い日に創られた、いわば神の不機嫌さの表出である」


had his temper at the time been less dyspeptic, things on earth might have been considerably less dire

「if S had + 過去分詞」(仮にSが~していたなら)と同等の意味を「had S + 過去分詞」で表すことができます。「had S + 過去分詞」の方がフォーマルな言い方。

「そのときの神の機嫌がもっと良かったなら、この地球上の状況はずっとましだったかもしれない」


Perhaps he meant that the universe as we know it is a bad mood of God's, created on an off day, and that had his temper at the time been less dyspeptic, things on earth might have been considerably less dire.

我々が知っている世界とは、神の機嫌が悪い日に創られた、いわば神の不機嫌さの表出であり、そのときの神の機嫌がもっと良かったなら、この地球上の状況はずっとましだったかもしれない、といったことを彼はあるいは言いたかったのかもしれない」


ちなみに、カフカと友人の前述のやりとりに先立って、カフカは our world is only a bad mood of God, a bad day of his. と言った
とされ、イーグルトンの the universe as we know it is a bad mood of God's という記述は、その発言を受けています。


文化理論・文学理論の成り立ちを概説する本 Introducing Critical Theory から。





以下は、文学とフェミニズムの関係を説明する文章の一部です。second wave feminist は、second-wave feminism(第二波フェミニズム運動)を形容詞にしたもの。「第二波フェミニズム運動」とは、1960年代から1990年代にかけて起こったフェミニズム運動のことです。



Literature has in fact become one of the prime sites of second wave feminist research, and the representation of women one of its key concerns.  

Stuart Sim, Introducing Critical Theory, p. 147


解説>







Literature has in fact become one of the prime sites of second wave feminist research

「実際、文学は第二波フェミニズム運動の活動家にとって主要な研究対象の1つとなった」


Literature has in fact become one of the prime sites of second wave feminist research, and the representation of women one of its key concerns.

the representation of women の後ろには、次のように has become が省略されています。

Literature has in fact become one of the prime sites of second wave feminist research, and the representation of women (has become) one of its key concerns.

A and B で、上の例のように A と B に同じ構造を持つ文が入るとき、くどくなるのを避けるために、共通する部分を B から取り除くことがよくあります。このような省略は、「共通関係の省略」と呼ばれたりします。

実際、文学は第二波フェミニズム運動の活動家にとって主要な研究対象の1つとなり、(文学作品において)女性がどのように表現されているかは、第二波フェミニズム運動の重大な関心事になった



オスカー・ワイルドの小説『ドリアン・グレイの肖像』から。


The Picture of Dorian Gray (Penguin Classics)
Wilde, Oscar
Penguin Classics
2003-02-01



以下は、登場人物の1人が、自分が行かなかった昼食会で何が起こったかを推量する一節です。その昼食会は貴族の集まりです。thrift は「質素倹約」、the idle は「有閑階級の人々」。




The rich would have spoken on the value of thrift, and the idle grown eloquent over the dignity of labour.  

Oscar Wilde, The Picture of Dorian Gray, p. 16


解説>







The rich would have spoken on the value of thrift, 

「would have + 過去分詞」(~しただろう)は、「もし仮にあの時~だったら」という仮定を受けて、架空の過去を推量するのに使われる用法を高校で習いますが、実際には「架空の過去」だけでなく、「実際に過去に起きたであろうこと」を推量するのにも使われます。

「金持ちは質素倹約の大切さについて話しただろう」


The rich would have spoken on the value of thrift, and the idle grown eloquent over the dignity of labour.

the idle と grown の間には、次のように would have が省略されています。

The rich would have spoken on the value of thrift, and the idle (would have) grown eloquent over the dignity of labour.

A and B で、上の例のように A と B に同じ構造を持つ文が入るとき、くどくなるのを避けるために、共通する部分を B から取り除くことがよくあります。このような省略は、「共通関係の省略」と呼ばれたりします。

「grow + 形容詞」は第2文型(VC)で「~な状態になる」という意味です。over ~ はここでは「~について」。

金持ちは質素倹約の大切さについて話しただろうし、(働かなくても生きていける)有閑階級の人間は、労働というものが持つ尊厳について雄弁に語りだしただろう」


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