英語の音いろ

映画、TVドラマ、洋書などの英語を、文法や構文そしてニュアンスの視点から解説します。

タグ:過去完了


オスカー・ワイルドの小説『ドリアン・グレイの肖像』から。


The Picture of Dorian Gray (Penguin Classics)
Wilde, Oscar
Penguin Classics
2003-02-01



貴族の青年ドリアン・グレイは、才能を持つ若くて美しい女優 Sibyl とお互いに激しい恋に落ち、婚約します。ドリアンは彼女のえも言われぬ演技に魅了されて、彼女が出演する舞台を毎日観に行きます。一方、Sibyl はそれまでシェイクスピアの様々な劇のヒロインとして全身全霊で演技に打ち込んでいたのが、自分自身が実際に恋をすることで、「演じる」という行為が急に空虚に感じられるようになります。そして、舞台の上でそれまで彼女が持っていた輝きを失ってしまいます。その様子を見たドリアンは失望し、彼女に冷たく別れを告げます。

ドリアンは、去らないでほしいと懇願する彼女を突き放して自宅に戻りますが、自室に置いてある自分の肖像画をふと見ると、そこに描かれている美しい自分の顔の口元に冷酷な影ができているのに気づきます。

以下は、Sibyl と別れたときのことを振り返るドリアンの様子を描いた文章の一部です。callousness は「冷淡さ」。




He remembered with what callousness he had watched her.  

Oscar Wilde, The Picture of Dorian Gray, p. 88


解説>







He remembered with what callousness he had watched her.

with what callousness he had watched her の部分全体が remembered の目的語として働いています。

what は疑問詞で、この疑問詞の節が始まるのは with から。what は with what callousness he had watched her という名詞節をまとめると同時に、自身の節の内部では、「どのような」という意味の形容詞として callousness(冷淡さ)を修飾しています。

with what callousness he had watched her で「どのような冷淡さでもって自分が彼女を眺めていたか」。with ~ は「~でもって」。


He remembered with what callousness he had watched her.

「彼は、自分がどのような冷淡さでもって彼女を眺めていたかを思い出した」



「彼は、(去らないでほしいと懇願する)彼女を自分がいかに冷淡に眺めていたかを思い出した」
 

この文には、この小説の他の多くの文と同様にかちっとしたフォーマルな響きがあります。with を文末において

He remembered what callousness he had watched her with.

としても意味は
変わりませんが、もっとカジュアルな感じになります。


オスカー・ワイルドの小説『ドリアン・グレイの肖像』から。


The Picture of Dorian Gray (Penguin Classics)
Wilde, Oscar
Penguin Classics
2003-02-01



以下は、画家が青年ドリアン・グレイの肖像画を描いている場面の一節です。lad は「少年/青年」を意味するややインフォーマルな語。the lad とはドリアンのことです。




'Just turn your head a little more to the right, Dorian, [...],' said the painter, deep in his work, and conscious only that a look had come into the lad's face that he had never seen there before.  

Oscar Wilde, The Picture of Dorian Gray, p. 21


解説>







'Just turn your head a little more to the right, Dorian, [...],' said the painter, deep in his work, and conscious only that a look had come into the lad's face that he had never seen there before.

deep と conscious は共に形容詞ですが、ここでは分詞構文と同等の働きをしています。分詞だけでなく、形容詞や名詞も分詞構文と同じように働くことができます。

conscious that S V で「SVということに気づいている」。

that he had never ~ の that は look を先行詞とする関係代名詞です。

「画家は描くことに没頭して、ただ、それまでに見たことのない表情がドリアンの顔をかすめたことにのみ気づいて、『ドリアン、頭をもうちょっと右に向けてくれないか?』と言った」
 


ミスター・ビーンで知られるローワン・アトキンソン主演のコメディ映画『ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬』から。


ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬 [Blu-ray]
ローワン・アトキンソン
ジェネオン・ユニバーサル
2012-12-05



以下は、ある会議の後に、イギリス情報部の長官であるペガサスが、イギリスの外相に謝罪するセリフです。会議ではペガサスの部下が外相に重大事件の証拠物件を見せる予定でしたが、部下がその証拠を盗まれてしまったため、外相は失望しています。Foreign Secretary は「外相/外務大臣」。





I'm very sorry, Foreign Secretary. I had hoped to have more for you.

Johnny English Reborn, (00:28:31)



解説>







I'm very sorry, Foreign Secretary. I had hoped to have more for you.

「外相、申し訳ありません。進展をご報告できるかと思っていたのですが」

これは「会議が始まる前は、~できると思っていた」という意味で、過去完了が使われているのは、「会議が始まる前の状態」を表しているためです。




作曲家ヨハネス・ブラームスの手紙のコレクションに解説を加えた本『Johannes Brahms: Life and Letters』から。


Johannes Brahms: Life and Letters
Johannes Brahms
Oxford Univ Pr on Demand
2001-09-27



以下は、ブラームスが Buxtehude という作曲家の 実力を認め、自らも彼の曲の楽譜を手に入れ、その作品を世に広めようとしていたことについての編者の文章です。

冒頭の he はブラームス、Passacaglia は Buxtehude の曲の1つ、pieces とはBuxtehude の曲のこと、Spitta はブラームスの知人です。




[...] he was interested in making Buxtehude's Passacaglia known to the world: on his own he had discovered a copy of one of the very pieces Spitta was having copied for him.

Johannes Brahms: Life and Letters, p. 462



解説>







he was interested in making Buxtehude's Passacaglia known to the world

「彼は Buxtehude の Passacaglia を世に知らしめようと考えていた


on his own he had discovered a copy of one of the very pieces Spitta was having copied for him.

pieces の後ろは関係代名詞の省略。元になっているのは、

Spitta was having O copied for him.(Spitta は彼のためにOを写してもらっていた)

という第5文型(VOC)の文で、関係代名詞は、自身の節の中では having の目的語として働いています。「have O 過去分詞」は「Oを~してもらう」という意味です。

「Spitta がブラームスのために筆写してもらっていた(Buxtehude の)曲のうち1曲の楽譜を、ブラームスは自分で見つけていた」


he had discovered と過去完了が使われているのは、ブラームスがBuxtehude の Passacaglia を世に知らしめようと考えていた」ときの状況や背景を、on his own he had discovered ~ の部分が示しているからです。



引き続きワインの百科事典、『The Oxford Companion to Wine 』より。





以下は、前回の文(ジンファンデルというブドウの品種とプリミティーヴォという品種は実は同一のものだったことを述べる文)のすぐ後に続く1文です。that 以下の部分の役割に特に注意して読んでみてください。

ジンファンデルとプリミティーヴォ
は同じものですが、ジンファンデルはアメリカでの呼び名、プリミティーヴォはイタリアでの呼び名です。文頭の the relationship とは「ジンファンデルとプリミティーヴォの関係」つまり「その2品種の同一性」のことです。




The relationship had already been sufficiently acknowledged by the Italians in the 1980s that some were exporting their Primitivo labelled, in direct appeal to the American market, Zinfandel.

The Oxford Companion to Wine, p. 792



解説>







The relationship had already been sufficiently acknowledged by the Italians in the 1980s that some were exporting their Primitivo labelled, in direct appeal to the American market, Zinfandel.

sufficiently は「十分に」という意味ですが、「何がどうするのに十分なのか」を that節で表すことがあり、in the 1980s の後ろの that節はこの用法です。enough にもこの用法があります。


some were exporting their Primitivo labelled, ~ , Zinfandel

は、labelled, ~ , Zinfandel の部分をCとする第5文型(VOC)。この場合の第5文型は「OをCの状態でVする」で、「一部のイタリア人は、自分たちが作ったプリミティーヴォのワインを、ジンファンデルとラベルに書かれた状態で輸出していた」



The relationship had already been sufficiently acknowledged by the Italians in the 1980s that some were exporting their Primitivo labelled, in direct appeal to the American market, Zinfandel.

ジンファンデルとプリミティーヴォが同一の品種であることは、1980年代にはすでにイタリア人の間ではそれなりに知られていた。このため一部のイタリア人は、アメリカ市場に訴求するため、自分たちが作ったプリミティーヴォのワインを、(アメリカでの呼び名である)ジンファンデルという名前で輸出していた」


冒頭部分で過去完了が使われているのは、一部のイタリア人がプリミティーヴォをジンファンデルという名前で輸出していた「背景」を説明しているためです。



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