オスカー・ワイルドの小説『ドリアン・グレイの肖像』から。
貴族の青年ドリアン・グレイは、才能を持つ若くて美しい女優 Sibyl とお互いに激しい恋に落ち、婚約します。ドリアンは彼女のえも言われぬ演技に魅了されて、彼女が出演する舞台を毎日観に行きます。一方、Sibyl はそれまでシェイクスピアの様々な劇のヒロインとして全身全霊で演技に打ち込んでいたのが、自分自身が実際に恋をすることで、「演じる」という行為が急に空虚に感じられるようになります。そして、舞台の上でそれまで彼女が持っていた輝きを失ってしまいます。その様子を見たドリアンは失望し、彼女に冷たく別れを告げます。
ドリアンは、去らないでほしいと懇願する彼女を突き放して自宅に戻りますが、自室に置いてある自分の肖像画をふと見ると、そこに描かれている美しい自分の顔の口元に冷酷な影ができているのに気づきます。
以下は、Sibyl と別れたときのことを振り返るドリアンの様子を描いた文章の一部です。callousness は「冷淡さ」。
He remembered with what callousness he had watched her.
Oscar Wilde, The Picture of Dorian Gray, p. 88
<解説>
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He remembered with what callousness he had watched her.
with what callousness he had watched her の部分全体が remembered の目的語として働いています。
what は疑問詞で、この疑問詞の節が始まるのは with から。what は with what callousness he had watched her という名詞節をまとめると同時に、自身の節の内部では、「どのような」という意味の形容詞として callousness(冷淡さ)を修飾しています。
with what callousness he had watched her で「どのような冷淡さでもって自分が彼女を眺めていたか」。with ~ は「~でもって」。
He remembered with what callousness he had watched her.
「彼は、自分がどのような冷淡さでもって彼女を眺めていたかを思い出した」
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「彼は、(去らないでほしいと懇願する)彼女を自分がいかに冷淡に眺めていたかを思い出した」
この文には、この小説の他の多くの文と同様にかちっとしたフォーマルな響きがあります。with を文末において
He remembered what callousness he had watched her with.
としても意味は変わりませんが、もっとカジュアルな感じになります。