オスカー・ワイルドの小説『ドリアン・グレイの肖像』から。
最初は穢れのない青年だったドリアンは、新しく出会って友人となった Lord Henry の影響をうけて退廃的な生活を送るようになります。以下は、退廃的な思想をドリアンに吹き込む Lord Henry の言葉です。temptation は「誘惑」、longing for ~ で「~を欲しがる気持ち」。
The only way to get rid of a temptation is to yield to it. Resist it, and your soul grows sick with longing for the things it has forbidden to itself, with desire for what its monstrous laws have made monstrous and unlawful.
Oscar Wilde, The Picture of Dorian Gray, p. 21
<解説>
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The only way to get rid of a temptation is to yield to it.
「誘惑を(自分の心から)取り除く唯一の方法は、それに屈することだ」
Resist it, and your soul grows sick with longing for the things it has forbidden to itself, with desire for what its monstrous laws have made monstrous and unlawful.
「命令文 + and S V」で「~してもみろ。そんなことをすればSはVしてしまう」。「grow + 形容詞」は第2文型(VC)で「~な状態になる」。
Resist it, and your soul grows sick で「もし抗おうとすれば、心は病んでしまう」。
with longing for the things it has forbidden to itself
it と itself は your soul を指しています。it has forbidden における現在完了は、「禁じた結果、今禁じられている」という「結果」の用法で、この後の have made も同様です。
「心が自身に対して禁じたものを欲する気持ちのせいで」
with desire for what its monstrous laws have made monstrous and unlawful
この部分は with longing for ~ の言い換え。its は your soul を指しています。unlawful は通常は「違法な」ですが、ここでは「無法な」「無秩序な」といった意味です。
「心が自身に課した化け物のような法が、まさにそのために無法な化け物に変えてしまったものへの欲望のせいで」
欲するものを無理に自分に禁じることで、自分が欲しがっているその対象物が肥大化して、自分の心を焼き尽くしてしまうことを述べています。monstrous な law(禁忌)のために対象物そのものが monstrous になるとする点、そして law と unlawful が対比されている点など、とてもオスカー・ワイルドらしい文です。
Resist it, and your soul grows sick with longing for the things it has forbidden to itself, with desire for what its monstrous laws have made monstrous and unlawful.
「もし抗おうとすれば、心は病んでしまう。心が自身に対して禁じたものを欲する気持ちのせいで。心が自身に課した化け物のような法が、まさにそのために無法な化け物に変えてしまった対象物への欲望のせいで」