英語の音いろ

映画、TVドラマ、洋書などの英語を、文法や構文そしてニュアンスの視点から解説します。

タグ:時制の一致


イギリスの文学批評家、文化理論家テリー・イーグルトンによる After Theory(2003年)から。


After Theory (English Edition)
Eagleton, Terry
Penguin
2004-08-26



以下は、1960年代と1970年代の文化理論・文学理論の特徴を説明する文章の一部です。it はこの時代の文化理論・文学理論を指しています



On the whole, it valued what could not be thought more highly than what could.

Terry Eagleton, After Theory, p. 71



<解説>







On the whole, it valued what could not be thought more highly than what could.

cannot + more ~ で最上級の意味を表す用法があったり、think highly of ~(~を高く評価する)というフレーズがあったりして紛らわしいのですが、この文の more highly は valued を修飾しています。

it valued A more highly than B で「それはBよりもAを高く評価した」。

could と過去形が使われているのは時制の一致。文末には be thought が省略されています。


「全体としてこれらの文化理論・文学理論は、人間の思考で捉えることができるものよりも、
人間の思考では捉えられないものに、より価値を見出した」
 


オスカー・ワイルドの小説『ドリアン・グレイの肖像』から。


The Picture of Dorian Gray (Penguin Classics)
Wilde, Oscar
Penguin Classics
2003-02-01



ドリアンが婚約者に冷酷な仕打ちをした夜、自宅に戻った彼は、自室に置いてある自分の肖像画の美しい口元に冷たい影が生じているのに気づきます。ドリアンは恐れを抱きながらも、自分の心と肖像画の絵の具の間に何らかのつながりがあるのではないかと興味を持ちます。以下は、そのときにドリアンが考えたことを伝える文です。

that soul は「ドリアンの心」、they は「肖像画の絵の具を構成する物質」を指しています。




Could it be that what that soul thought, they realized? - that what it dreamed, they made true?  

Oscar Wilde, The Picture of Dorian Gray, p. 93


解説>







Could it be that what that soul thought, they realized? - that what it dreamed, they made true?

Could it be that S V? で「SVということなのだろうか?」。it は状況を指しているとも言えます。

what that soul thought, they realized は OSV、

what it dreamed, they made true は OSVC という語順の倒置文です。realized、dreamed と過去形になっているのは、先頭に Could が使われていることによる時制の一致と捉えるとよいでしょう。

realize はここでは「気づく」ではなく「具現化する」という意味です。


「自分の心が思うことをそれらが具現化するのだろうか。自分の心が夢見ることをそれらが実現するのだろうか」


007シリーズ『ダイ・アナザー・デイ』(2002年)から。予告編はこちら


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ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
2019-06-19



ボンドは北朝鮮に捕らえられ監禁されていましたが、米英の情報部は、ボンドが拷問を受けて機密を漏らしていると考え、捕虜交換によってボンドを北朝鮮から取り戻す手配をします。下のセリフは、北朝鮮と韓国の国境にある橋で捕虜交換が行われ、多くの米英の関係者が見守る中、ボンドが橋を渡って韓国側へとゆっくりと近づいてくる場面のものです。

以下は、大勢に見守られながら近づいてくるボンドを見たアメリカ国家安全保障局のチーフであるファルコが、イギリス側の人間に対して言うセリフです。ファルコは、ボンドが機密を漏らしたせいで、アメリカの情報員が殺されたと考えていて、ボンドのことをよく思っていません。




Look at him. You'd think he was some kind of a hero.

Die Another Day  (00:20:23)


<解説>







Look at him. You'd think he was some kind of a hero.

You は「あなた」ではなく、人一般を指す用法。「あの様子を見たら」あるいは「あの様子を見た人なら」という仮定を受けて、助動詞の過去形である would が使われています。he was と過去形になっているのは、最初に過去形の would が使われていることによる時制の一致で、過去のことを表しているわけではありません。

「some + 可算名詞の単数形」の場合の some は「何らかの」という意味です。

「奴を見てみろ。(事情を知らない人があの様子を見たら)奴のことを何かの英雄かと勘違いしそうだな」


こちらの記事で、ハリーポッターにおける似たような would の使い方を取り上げています。


次の you'd think も同様の使い方です。

I ignore him every time I see him, so you’d think he’d get the message and leave me alone.
(Cambridge Dictionary)

「彼に会うたびに私は彼を無視している。(そう聞いたら普通は)彼は空気を読んで私に構わないようにしてくれると思うでしょ?(でもそうじゃない)」

get the message は「言いたいことを察する」という意味の熟語です。



ハリーポッター第2作目「ハリー・ポッターと秘密の部屋」から。


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以下は、魔法学校で主人公 Harry Potter のチームとライバル関係にあるチームのリーダー的存在である Draco Malfoy のセリフです。Malfoy は、Harry の親友でありチームメイトでもある Ron Weasley と彼の家族の魔法能力を低く見ており、彼らの悪口を言っています。

Harry と Ron が、Malfoy のチームメイトに化けて、Malfoy の悪口の聞き手になっています。pure-blood とは、魔法使いと一般人のハーフではなく、両親ともに魔法使いである人のことです。



You'd never know the Weasleys were pure-bloods, the way they behave. They're an embarrassment to the wizarding world. All of them.

Harry Potter and the Chamber of Secrets  (01:22:36)


<解説>







You'd never know the Weasleys were pure-bloods, the way they behave.

the way they behave は通常であれば「彼らの振舞い方」という意味で名詞として働きますが、ここでは「彼らの振舞い方から判断したら」「彼らの振舞い方を見たら」という意味を持ちます。先頭の You は「あなた」ではなく、「人々一般」を表す用法。

You'd はここでは You would の短縮形。will は「もし仮に」という何らかの仮定を受けると would に変わります。主語 You に含まれる仮定、そして「彼らの振舞いを目にしたならば」に含まれる仮定を受けて would が使われています。

the Weasleys とは「Weasley 家の人々」という意味。

the Weasleys were と be動詞の過去形が使われているのは、いわゆる「時制の一致」。You'd と先頭で過去形が使われた時点で「過去形の世界」に入り込んでいて、その後の動詞も過去形になっています。


You'd never know the Weasleys were pure-bloods, the way they behave. They're an embarrassment to the wizarding world. All of them.

「もし何も知らない人が Weasley 家の奴らの(魔法使いらしくない不器用な)振舞いを見たら、あいつらが純血種の魔法使いの家系だとは到底気づかないな。奴らは魔法使い界の恥さらしだ。一人残らずな」

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