英語の音いろ

映画、TVドラマ、洋書などの英語を、文法や構文そしてニュアンスの視点から解説します。

タグ:意味の把握


イギリスの文学批評家、文化理論家テリー・イーグルトンによる Hope without Optimism(2015年)から。現代において、現実を見つめながら希望を持つということはどのようなことなのかを考察する本です。


Hope Without Optimism
Terry Eagleton
Yale University Press
2017-06-02



以下は、現代社会において hope という語が持っているかもしれない、必ずしも肯定的とは言えないニュアンスについての1文です。slender は「細い」、reed は「茎の中が空洞になっている葦などの植物」、scanty は「乏しい/ないに等しい」。



Hope is a slender reed, a castle in the air, agreeable company but a poor guide, fine sauce but scanty food.

Terry Eagleton, Hope without Optimism, p. 39



<解説>







Hope is a slender reed, a castle in the air, agreeable company but a poor guide, fine sauce but scanty food.

この文では、SVC のCとして

a slender reed
a castle in the air
agreeable company but a poor guide
fine sauce but scanty food

という4つの名詞が並列されています。通常、複数のものを並列する場合には「A, B, C and D」のように and が使われますが、ここでは1つの内容を異なる表現で言い換えているだけなので and は使われていません。

slender reed(細い葦)は「頼りにならないもの」を表す表現で、castle in the air(空中の城)も「砂上の楼閣」といった意味の熟語です。company はここでは「そばにいて一緒に時間を過ごす人」の意。

「hope とは、細い葦(=頼りにならないもの)であり、砂上の楼閣であり、一緒にいて楽しいが案内人としては役に立たない人であり、素晴らしいソースであるがお腹を満たさないものである」


ミスター・ビーンで知られるローワン・アトキンソン主演のコメディ映画『ジョニー・イングリッシュ』(2003年)から。


ジョニー・イングリッシュ [DVD]
ベン・ミラー
KADOKAWA / 角川書店
2018-08-24



この映画における悪役でフランスの大富豪である Pascal Sauvage は、自分がイギリスを支配できるようにするためにイギリス国王の座を狙っています。以下は、それを阻止しようとするイギリス情報部員のジョニー・イングリッシュが Pascal Sauvage に向かって言うセリフです。



My bottom will be king of England before you are.

Johnny English (01:05:09)


解説>







My bottom will be king of England before you are.

bottom はここでは「お尻」の意。you are の後には king of England が省略されています。

「あなたがイギリスの王になる前に、私のお尻がイギリスの王になるだろう」

「あなたがイギリスの王になる日など決して来ない」

日本語ではちょっと思いつかなそうな表現です。


オスカー・ワイルドの小説『ドリアン・グレイの肖像』から。


The Picture of Dorian Gray (Penguin Classics)
Wilde, Oscar
Penguin Classics
2003-02-01



最初は穢れのない青年だったドリアンは、新しく出会って友人となった Lord Henry の影響をうけて退廃的な生活を送るようになります。以下は、退廃的な思想をドリアンに吹き込む Lord Henry の言葉です。temptation は「誘惑」、longing for ~ で「~を欲しがる気持ち」。



The only way to get rid of a temptation is to yield to it. Resist it, and your soul grows sick with longing for the things it has forbidden to itself, with desire for what its monstrous laws have made monstrous and unlawful.  

Oscar Wilde, The Picture of Dorian Gray, p. 21


<解説>







The only way to get rid of a temptation is to yield to it.

「誘惑を(自分の心から)取り除く唯一の方法は、それに屈することだ」


Resist it, and your soul grows sick with longing for the things it has forbidden to itself, with desire for what its monstrous laws have made monstrous and unlawful.

「命令文 + and S V」で「~してもみろ。そんなことをすればSはVしてしまう」。「grow + 形容詞」は第2文型(VC)で「~な状態になる」。

Resist it, and your soul grows sick で「もし抗おうとすれば、心は病んでしまう」。


with longing for the things it has forbidden to itself

it と itself は your soul を指しています。it has forbidden における現在完了は、「禁じた結果、今禁じられている」という「結果」の用法で、この後の have made も同様です。

「心が自身に対して禁じたものを欲する気持ちのせいで」


with desire for what its monstrous laws have made monstrous and unlawful

この部分は with longing for ~ の言い換え。its は your soul を指しています。unlawful は通常は「違法な」ですが、ここでは「無法な」「無秩序な」といった意味です。

「心が自身に課した化け物のような法が、まさにそのために無法な化け物に変えてしまったものへの欲望のせいで」

欲するものを無理に自分に禁じることで、自分が欲しがっているその対象物が肥大化して、自分の心を焼き尽くしてしまうことを述べています。monstrous な law(禁忌)のために対象物そのものが monstrous になるとする点、そして law と unlawful が対比されている点など、とてもオスカー・ワイルドらしい文です。


Resist it, and your soul grows sick with longing for the things it has forbidden to itself, with desire for what its monstrous laws have made monstrous and unlawful.

「もし抗おうとすれば、心は病んでしまう。心が自身に対して禁じたものを欲する気持ちのせいで。心が自身に課した化け物のような法が、まさにそのために無法な化け物に変えてしまった対象物への欲望のせいで」


イギリスの文学批評家、文化理論家テリー・イーグルトンによる Hope without Optimism(2015年)から。現代において、現実を見つめながら希望を持つということはどのようなことなのかを考察する本です。


Hope Without Optimism
Terry Eagleton
Yale University Press
2017-06-02



以下は、キリスト教が hope というものをどのように捉えているかについての記述です。be grounded in ~ で「~に基づいている」、mercy は「慈悲」。



Hope for Christian belief is grounded in God's love and mercy, and these are indeed seen as certain. They belong to what it is for God to be God.

Terry Eagleton, Hope without Optimism, p. 83



<解説>







Hope for Christian belief is grounded in God's love and mercy, and these are indeed seen as certain.

「キリスト教の信仰においては、hope というものは神の愛と慈悲に基づいており、実際、神の愛と慈悲は『確実なもの』とみなされている」


They belong to what it is for God to be God.

what S is で「Sというもの」。it は形式主語で、本当の主語は for God to be God(神が神であること)。この for は不定詞の意味上の主語を示しています。

「それら(=神の愛と慈悲)は、神が神であることに属している」

「(キリスト教においては)愛と慈悲は、神を神たらしめるものの一部である(とされている)」



007シリーズ Quantum of Solace(邦題『慰めの報酬』)(2008年)から。予告編はこちら


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2018-03-16



ボンドは死闘の末ある敵を倒しますが、その敵が死んだことで、その背後にいる人物を突き止める手がかりを失ってしまいます。以下は、そのことでボンドを叱責する上司のセリフです。



And you had to kill him! Couldn't bring him in for questioning so that we might actually learn something.

Quantum of Solace  (00:16:02)


<解説>







And you had to kill him! 

直訳すると「殺さなければならなかった」となりますが、これは皮肉で「なぜ殺してしまわなければならなかったのか?」「殺すべきではなかった。殺してしまうとは無能だ」という意味を表しています。前回の記事で紹介した『アナと雪の女王』における had to の使い方と似ています。

「なぜ殺してしまったのか!」


Couldn't bring him in for questioning.so that we might actually learn something.

主語の you が省略されています。bring O in はここでは「Oの身柄を拘束する」という意味です。

「尋問して(背後にいる人物について)手がかりが得られるよう生かして拘束できないとは」



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