英語の音いろ

映画、TVドラマ、洋書などの英語を、文法や構文そしてニュアンスの視点から解説します。

タグ:倒置(OSV)


イギリスの文学批評家、文化理論家テリー・イーグルトンによる Reason, Faith, and Revolution(2009年)から。





以下は、「科学」というものについて著者が自分の考えを述べる一節です。この著者はポストモダニズムについては、その価値を認めながらも全体的には批判的な態度を取っている理論家です。article of faith は「強い信条/思想」、sceptic は「懐疑主義者」



Science, then, trades on certain articles of faith like any other form of knowledge. This much, at least, the postmodern skeptics of science have going for them [...].

Terry Eagleton, Reason, Faith, and Revolution, p. 131



<解説>







Science, then, trades on certain articles of faith like any other form of knowledge.

trade on ~ には「~につけ込む」という熟語としての使い方がありますが、ここでは文字通りの意味である「~に基づいて(ビジネスの)活動を行う」に近い意味で使われています。

「ということは、他のあらゆる形の知と同様、科学も(完全に中立的、客観的ではあり得ず)特定の思想に基づいているのである」


This much, at least, the postmodern skeptics of science have going for them [...]. 

This much は「この分量」。この much は名詞です。

この文においては、This much がO、the postmodern skeptics of science がS、have がV、going ~ がCで、全体は OSVC という語順の倒置文です。倒置を戻すと、

The postmodern skeptics of science have this much going for them.

skeptics of ~ で「~について懐疑的な人」。この文では、You have O going for you(Oがあなたにとって利点・後ろ盾である)という熟語が使われています。直訳すると、

「ポストモダンの考え方をする人によく見られる、科学に対して懐疑的な態度をとる人々は、これだけの後ろ盾は持っている」


Science, then, trades on certain articles of faith like any other form of knowledge. This much, at least, the postmodern skeptics of science have going for them [...].

「ということは、他のあらゆる形の知と同様、科学も(完全に中立的、客観的ではあり得ず)特定の思想に基づいているのである。
ポストモダンの考え方をする人によく見られる、科学に対して懐疑的な態度をとる人々も、少なくともこの点では正当だ


オスカー・ワイルドの小説『ドリアン・グレイの肖像』から。


The Picture of Dorian Gray (Penguin Classics)
Wilde, Oscar
Penguin Classics
2003-02-01



ドリアンが婚約者に冷酷な仕打ちをした夜、自宅に戻った彼は、自室に置いてある自分の肖像画の美しい口元に冷たい影が生じているのに気づきます。そして、その不思議な現象に興味を持つと同時に恐れも抱きます。以下は、そのときのドリアンの心の変化を描写した文章の一部です。

こちらの記事で紹介した文の少し後に続く文です。また、ドリアンの仕打ちの具体的な内容はこちらで紹介しています)

Sibyl Vane はドリアンの婚約者、it は「肖像画の口元に冷たい影が生じたこと」を指しています。



One thing, however, he felt that it had done for him. It had made him conscious how unjust, how cruel, he had been to Sibyl Vane.  

Oscar Wilde, The Picture of Dorian Gray, p. 93


<解説>







One thing, however, he felt that it had done for him.

この文は、He felt that s v o. における o を文頭に移動した倒置文で、one thing は done の目的語です。倒置を元に戻すと、However, he felt that it had done one thing for him.。

SVO を OSV に倒置した文はよくありますが、「S V that s v o」を「o S V that s v」に倒置した文は比較的珍しいと言えます。

「しかし、ある1つの効果をそれは自分にもたらしたと彼は感じた」


It had made him conscious how unjust, how cruel, he had been to Sibyl Vane.

「自分が Sibyl Vane に対していかに不当だったか、いかに残酷だったかを、それは彼に意識させたのだった」


オスカー・ワイルドの小説『ドリアン・グレイの肖像』から。


The Picture of Dorian Gray (Penguin Classics)
Wilde, Oscar
Penguin Classics
2003-02-01



ドリアンが婚約者に冷酷な仕打ちをした夜、自宅に戻った彼は、自室に置いてある自分の肖像画の美しい口元に冷たい影が生じているのに気づきます。ドリアンは恐れを抱きながらも、自分の心と肖像画の絵の具の間に何らかのつながりがあるのではないかと興味を持ちます。以下は、そのときにドリアンが考えたことを伝える文です。

that soul は「ドリアンの心」、they は「肖像画の絵の具を構成する物質」を指しています。




Could it be that what that soul thought, they realized? - that what it dreamed, they made true?  

Oscar Wilde, The Picture of Dorian Gray, p. 93


解説>







Could it be that what that soul thought, they realized? - that what it dreamed, they made true?

Could it be that S V? で「SVということなのだろうか?」。it は状況を指しているとも言えます。

what that soul thought, they realized は OSV、

what it dreamed, they made true は OSVC という語順の倒置文です。realized、dreamed と過去形になっているのは、先頭に Could が使われていることによる時制の一致と捉えるとよいでしょう。

realize はここでは「気づく」ではなく「具現化する」という意味です。


「自分の心が思うことをそれらが具現化するのだろうか。自分の心が夢見ることをそれらが実現するのだろうか」


オスカー・ワイルドの小説『ドリアン・グレイの肖像』から。


The Picture of Dorian Gray (Penguin Classics)
Wilde, Oscar
Penguin Classics
2003-02-01



以下は、登場人物の1人が、美しい青年であるドリアン・グレイに「若くて美しいうちに若さを満喫するように」と説くセリフの一部です。




[...], Mr Gray, the gods have been good to you. But what the gods give they quickly take away.  

Oscar Wilde, The Picture of Dorian Gray, p. 24


解説>







[...], Mr Gray, the gods have been good to you.

be good to ~ は「~に対して親切である」という意味です。

「グレイさん、神々はあなたによくしてくれた」


But what the gods give they quickly take away.

what the gods give の部分はO。この文は、SVO を OSV に倒置したものです。

「でも、神々は与えたものをすぐに取り返してしまうものです」
 


再びハーバード大学の歴史学者 Niall Ferguson によるドキュメンタリー Civilization: Is the West History? から。

81KA+QXqrHL._SL1500_Niall Ferguson, Civilization: Is the West History? [DVD]
(イギリスのDVDは、日本国内用の通常のDVDプレイヤーでは再生できません。ご注意ください)

以下は、イギリスの哲学者ジョン・ロックが、1669年に北アメリカにおけるイギリスの植民地のために起草したカロライナ基本憲法についての話です。



[...] Locke envisaged not a democracy here, but an aristocracy - a hierarchical society complete with margraves and barons. All of that the colonists more or less ignored. The thing that caught their eye, though, was Locke's assumption that practically everybody here would end up owning some land [...].

Niall Ferguson, Civilization: Is the West History?, Episode 2  (00:13:34)



解説>







Locke envisaged not a democracy here, but an aristocracy - a hierarchical society complete with margraves and barons. All of that the colonists more or less ignored. The thing that caught their eye, though, was Locke's assumption that practically everybody here would end up owning some land [...].

通常は名詞が2つ続くときには関係代名詞の省略を考えますが、第2文において All of that と the colonists の間に関係代名詞が省略されていると考えると、意味も変である上に、文の動詞がなくなってしまいます。この文は S V O が O S V に倒置されたもので、文頭の All of that が ignored の目的語になっています。

「ロックがここで思い描いていたのは民主主義社会ではなく貴族社会であり、侯爵や男爵まできちんとそろった階級社会だった。階級に関するそのようなロックの構想については、入植者たちはまともに取り合わなかったが、彼らが注目したのは、入植した全員が最終的には多少なりとも土地の所有者になるというロックの構想だった」


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