英語の音いろ

映画、TVドラマ、洋書などの英語を、文法や構文そしてニュアンスの視点から解説します。

タグ:倒置(先頭に否定の副詞がある場合)


再び、Parker's Wine Bargains(邦題『ワインの帝王ロバート・パーカーが薦める世界のベスト・バリューワイン』)から。





以下は、
前回の文章のすぐ後に続く文で、引き続きロワール川流域のワインを説明しています。



From few if any other places on earth can one still harvest such affordable yet distinctively delicious wines; the stylistic range is so vast that it would bewilder if it did not bewitch us. 

Parker's Wine Bargains: The World's Best Wine Values Under $25, p. 197


解説>







From few if any other places on earth can one still harvest such affordable yet distinctively delicious wines; the stylistic range is so vast that it would bewilder if it did not bewitch us.

if は基本的には if S V の形で使われますが、ここは、

From few (if any) places

となっています。if any は「たとえあったとしても」という意味で few(ほとんど~ない)を修飾しており、few (if any) が places を修飾しています。few if any ~ はよく使われる表現なので、見たらすぐに、few (if any) ~ と読めるようにしておくとよいと思います。

英語では、否定の意味を持つ副詞が先頭に来ると、後ろは疑問文の語順に倒置される、という約束があります。

From few (if any) places も「ほとんど~ない」という否定の意味を持ち副詞的に働いているので、後ろが「can + S + 動詞の原形」という疑問文の形になっています。From few ~ は副詞句にしかなり得ないので、From few を見た時点で後ろが倒置されていることを予期し、can S を見つけます。


From few (if any) other places on earth, can one still harvest such affordable yet distinctively delicious wines

「ロワール川流域のように、安くてしかも特徴的な素晴らしい美味しさを持つワインをいまだに見つけられる地域は、世界中にほとんどないと言ってよいだろう」


後半部分

the stylistic range is so vast that it would bewilder if it did not bewitch us.

の if も上の場合と同様「たとえ~としても」の用法です。

the stylistic range is so vast that it would bewilder (if it did not bewitch) us.

「ロワールワインのスタイルは多種多様で、その種類の豊富さは、我々の思考能力を奪ってしまうというほどではないとしても、我々を十分に混乱させてしまうだろう」

bewilder はその意味から他動詞のはず、と考えて目的語Oを予期しながら if ~ の部分を読んでいき、bewitch と共通の目的語である us を見つけます。


イギリスの文学批評家、文化理論家テリー・イーグルトンによる Hope without Optimism(2015年)から。現代において、現実を見つめながら希望を持つということはどのようなことなのかを考察する本です。


Hope Without Optimism
Terry Eagleton
Yale University Press
2017-06-02



以下は、13世紀のイタリアの神学者トマス・アクィナスが「hope(希望)」というものをどのように定義していたかを、著者であるイーグルトンが説明する文章の1文です。

アクィナスは、希望とは美徳の1種であり、達成が困難な『善』に対してこそ希望を持つべきだと考えていた」という説明の後に、以下の文が続きます。the virtue とはここでは「希望(という美徳)」のことです。the ready-to-hand は「簡単に手に入るもの」。



You cannot hope for the impossible, but neither in Aquinas's view is the virtue best exemplified by the ready-to-hand and easy-to-achieve.

Terry Eagleton, Hope without Optimism, p. 50




<解説>







You cannot hope for the impossible, but 

You は人一般を表します。「the + 形容詞」は「~なもの」。

「達成することが完全に不可能なものに対して希望を持つことはそもそもできないが」


neither (in Aquinas's view) is the virtue best exemplified by the ready-to-hand and easy-to-achieve.

英語では、否定の意味を持つ副詞が先頭に来ると、後ろは疑問文の語順に倒置される、という約束があります。neither(~もまた…ない)が否定の意味を持つため、後ろが疑問文の語順に倒置されています。

the virtue が主語。be best exemplified は、best exemplify O(Oがどんなものなのかを最も適切に示す)の受動態です。

アクィナスの見解では、簡単に手に入ったり達成できたりするものも、『希望』という美徳(の本来あるべき形)を最適には示さない」

つまり

「簡単に手に入ったり達成できたりするものも、『希望』という美徳の対象としてふさわしくないとアクィナスは考えていた




ワインの百科事典、『The Oxford Companion to Wine 』より。





以下は、アメリカでよく栽培されているジンファンデルというワイン用のブドウの品種と、南イタリアで栽培されているプリミティーヴォという品種についての話で、「1990年代前半に、品種の特定にDNA鑑定が用いられるようになった」という文に続く1文です。



Only then was it irrefutably demonstrated what had been suspected, that Zinfandel is one and the same as the Primitivo of southern Italy.

The Oxford Companion to Wine, p. 792



解説>







Only then was it irrefutably demonstrated what had been suspected, that Zinfandel is one and the same as the Primitivo of southern Italy.

英語では、否定の意味を持つ副詞が先頭に来ると、後ろは疑問文の語順に倒置される、という約束があります。only then は「その時にのみ」つまり「その時になって初めて」。only に否定の意味が含まれるため、was 以下が疑問文の語順に倒置されています。

主語は it で形式主語。本当の主語は what had been suspected(証拠はないが事実だろうと人々が思っていたこと)。コンマの後ろの that節は what の節と同格です。

one and the same は「完全に同じもの」。


Only then was it irrefutably demonstrated what had been suspected, that Zinfandel is one and the same as the Primitivo of southern Italy.

「その時になって初めて、証拠はないが事実だろうと人々が思っていたこと、つまり、ジンファンデルが南イタリアのプリミティーヴォと完全に同じ品種であるということが、反駁の余地なく証明された

what had been suspected で過去完了が使われているのは、then(その時)、つまり、品種の特定にDNA鑑定が用いられるようになった1990年代前半の視点から、それ以前の状況を振り返っているからです。


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