イギリスの文学批評家、文化理論家テリー・イーグルトンによるによる Hope without Optimism(2015年)から。現代において、現実を見つめながら希望を持つということはどのようなことなのかを考察する本です。
以下は、著者であるイーグルトンによる、デンマークの哲学者キルケゴールの文の引用です。「絶望 (despair) 」とは何かについての文です。
'Despair', Kierkegaard writes, 'is that sickness of which it is true that it is the greatest misfortune never to have had it; [...]'
Terry Eagleton, Hope without Optimism, p. 128
<解説>
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'Despair', Kierkegaard writes, 'is that sickness of which it is true that it is the greatest misfortune never to have had it; [...]'
that sickness の that は、sickness が後ろから関係詞の節で修飾されていることを示しています。which は sickness を先行詞とする関係代名詞。
関係代名詞の節は of which から never to have had it まで。
of which it is true that it is the greatest misfortune never to have had it
元になっているのは「it is true of ~ that S V」(~に関しては、SVということが真実である)という文で、it is true の it は形式主語、that節が本当の主語です。
be true of ~ は、「~に当てはまる」といった意味で説明されることが多いですが、ここでは文字通りに「~に関しては真実である」という意味で捉えると、より分かりやすいかもしれません。
it is the greatest misfortune never to have had it
先頭の it は形式主語、本当の主語は never to have had it。完了形の不定詞(to have + 過去分詞)は、過去形や完了形と同等の意味を持ちます。
「それを一度も持たなかったのは、最大の不幸である」
'Despair', Kierkegaard writes, 'is that sickness ←[of which it is true that it is the greatest misfortune never to have had it]'
「キルケゴールは次のように書いている。『絶望とは、一度も罹ったことがないならば、それは最大の不幸だと言ってよい病気である』」