オスカー・ワイルドの小説『ドリアン・グレイの肖像』から。
ドリアンが婚約者に冷酷な仕打ちをした夜、自宅に戻った彼は、自室に置いてある自分の肖像画の美しい口元に冷たい影が生じているのに気づきます。そして、その不思議な現象に興味を持つと同時に恐れも抱きます。以下は、そのときのドリアンの心の変化を描写した文章の一部です。
(こちらの記事で紹介した文の少し後に続く文です。また、ドリアンの仕打ちの具体的な内容はこちらで紹介しています)
Sibyl Vane はドリアンの婚約者、it は「肖像画の口元に冷たい影が生じたこと」を指しています。
One thing, however, he felt that it had done for him. It had made him conscious how unjust, how cruel, he had been to Sibyl Vane.
Oscar Wilde, The Picture of Dorian Gray, p. 93
<解説>
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One thing, however, he felt that it had done for him.
この文は、He felt that s v o. における o を文頭に移動した倒置文で、one thing は done の目的語です。倒置を元に戻すと、However, he felt that it had done one thing for him.。
SVO を OSV に倒置した文はよくありますが、「S V that s v o」を「o S V that s v」に倒置した文は比較的珍しいと言えます。
「しかし、ある1つの効果をそれは自分にもたらしたと彼は感じた」
It had made him conscious how unjust, how cruel, he had been to Sibyl Vane.
「自分が Sibyl Vane に対していかに不当だったか、いかに残酷だったかを、それは彼に意識させたのだった」