英語の音いろ

映画、TVドラマ、洋書などの英語を、文法や構文そしてニュアンスの視点から解説します。

2020年07月


経済学の発展を辿る The Worldly Philosophers(1953年)から。





経済学の父と呼ばれるアダム・スミス(1723-1790)についての章で、著者は、アダム・スミスが当時の混沌とした社会に法則性を見出して、世界経済に多大な影響を与えることになる『国富論』を書き上げたのは驚くべきことだと述べます。

以下は、18世紀のイギリスにおける土地を持たない農民や炭鉱で働く子供たちの過酷な生活を描写した後に続く1文です。haphazard は「無秩序な」。



A strange, cruel, haphazard world this must have appeared to eighteenth-century as well as to our modern eyes.

Robert Heilbroner, The Worldly Philosophers, p. 44



<解説>







A strange, cruel, haphazard world this must have appeared to eighteenth-century as well as to our modern eyes.

A strange, cruel, haphazard world はC。全体は CSV という語順の倒置文です。
S appears C to ~ で「~の目にはSはCのように映る」。

eighteenth-century は形容詞。

to eighteenth-century (eyes)
as well as 
to our modern eyes

または、

to eighteenth-century (as well as to our modern) eyes

と読みます。


「18世紀の人々の目にも、これは奇妙で残酷で無秩序な世界に映ったことだろう。我々現代人の目にそう映るのと同じように」



イギリスの文学批評家、文化理論家テリー・イーグルトンによる After Theory(2003年)から。


After Theory (English Edition)
Eagleton, Terry
Penguin
2004-08-26



古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、「人間として存在する」ということは、たゆまぬ訓練によって初めて成し得るものだと考えたそうです。以下は、アリストテレスのこの考えについての著者の文章の一部です。

Aristotle はアリストテレス、Thomas Aquinas は13世紀イタリアの神学者トマス・アクィナス、Sigmund Freud は19世紀にオーストリアで精神分析を創設したフロイトです。mortician は「葬儀を行う業者」。



For Aristotle, being human was in a sense a technical affair, as was love for Thomas Aquinas, desire for Sigmund Freud, and as death is for a mortician.

Terry Eagleton, After Theory, p. 78



<解説>







For Aristotle, being human was in a sense a technical affair, as was love for Thomas Aquinas, desire for Sigmund Freud, and as death is for a mortician.

「アリストテレスにとって、人間として存在するということは、ある意味で技術的な事柄に属した。トマス・アクィナスにとって愛が、フロイトにとって欲望がそうであったように。そして葬儀を行う業者にとって死がそうであるように」


as was love for Thomas Aquinas, desire for Sigmund Freud,
and
as death is for a mortician

as は「ように」という意味ですが、in a sense a technical affair を先行詞とする関係代名詞のような役割を果たしていて、自身がまとめる節の内部では be動詞の補語(C)として働いています。

2つの as の役割は全く同じですが、

as death is for a mortician は CSV、

as was love for Thomas Aquinas, desire for Sigmund Freud は CVS

という語順になっています。as や than の後ろではこのような倒置がよく起こります。ちなみに、

He was showing off, as is the way with adolescent boys.
(
Oxford Advanced Learner's Dictionary)

「彼は自分を誇示していた。思春期の少年にありがちなように」

のような文では、as は主格の関係代名詞のように働いていて、

as is the way with adolescent boys は SVC

という語順になっています。


イギリスの文学批評家、文化理論家テリー・イーグルトンによる After Theory(2003年)から。


After Theory (English Edition)
Eagleton, Terry
Penguin
2004-08-26



以下は、1960年代と1970年代の文化理論・文学理論の特徴を説明する文章の一部です。it はこの時代の文化理論・文学理論を指しています



On the whole, it valued what could not be thought more highly than what could.

Terry Eagleton, After Theory, p. 71



<解説>







On the whole, it valued what could not be thought more highly than what could.

cannot + more ~ で最上級の意味を表す用法があったり、think highly of ~(~を高く評価する)というフレーズがあったりして紛らわしいのですが、この文の more highly は valued を修飾しています。

it valued A more highly than B で「それはBよりもAを高く評価した」。

could と過去形が使われているのは時制の一致。文末には be thought が省略されています。


「全体としてこれらの文化理論・文学理論は、人間の思考で捉えることができるものよりも、
人間の思考では捉えられないものに、より価値を見出した」
 


映画『ミッション:インポッシブル フォールアウト』(2018年)から。





主人公イーサンはある場所に潜入するために、相棒と共にパラシュートと酸素ボンベをつけて飛行機から飛び降りることになりますが、飛び降りる寸前になっても相棒が酸素ボンベをきちんと使えていないことに気づきます。以下は、相棒の酸素ボンベを直しながらイーサンが言うセリフです。



Is your oxygen on? There is no atmosphere at this altitude. I don't need you blacking out on me.

Mission: Impossible - Fallout (00:22:06)


解説>







Is your oxygen on? There is no atmosphere at this altitude.

この on は、電気器具などのオンオフと同じ使い方です。

「酸素ボンベの酸素はオンになっているのか(ちゃんと供給が開始されているのか)? この高度では(呼吸に必要なだけの)空気がないんだ」


I don't need you blacking out on me.

not need O ~ing は第5文型(VOC)で「Oが~している状態を必要としていない」「Oに~してもらう必要はない」が基本の意味ですが、皮肉の意味で「Oに~してもらっては困る」「Oに~して欲しくない」という意味になることがよくあります。black out は「気を失う」という意味の句動詞。

この on は前置詞で、直訳は難しいのですが強いて日本語にすれば、on ~ で「~を困らせるような形で」「~にダメージを与える形で」などとなります。

「君に(空中で酸素不足で)気を失ってもらっては困る」


この用法の on は口語でよく使われますが、なぜか載っている辞書は多くないようです。

以下は
Cambridge Dictionary から。
https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/on

The phone suddenly went dead on me.
「(私にとって困ったことに)急に電話が不通になった」

Their car broke down on them on the way home.
(彼らにとって困ったことに)帰る途中で車が故障した


イギリスの文学批評家、文化理論家テリー・イーグルトンによる Reason, Faith, and Revolution(2009年)から。





以下は、「科学」というものについて著者が自分の考えを述べる一節です。この著者はポストモダニズムについては、その価値を認めながらも全体的には批判的な態度を取っている理論家です。article of faith は「強い信条/思想」、sceptic は「懐疑主義者」



Science, then, trades on certain articles of faith like any other form of knowledge. This much, at least, the postmodern skeptics of science have going for them [...].

Terry Eagleton, Reason, Faith, and Revolution, p. 131



<解説>







Science, then, trades on certain articles of faith like any other form of knowledge.

trade on ~ には「~につけ込む」という熟語としての使い方がありますが、ここでは文字通りの意味である「~に基づいて(ビジネスの)活動を行う」に近い意味で使われています。

「ということは、他のあらゆる形の知と同様、科学も(完全に中立的、客観的ではあり得ず)特定の思想に基づいているのである」


This much, at least, the postmodern skeptics of science have going for them [...]. 

This much は「この分量」。この much は名詞です。

この文においては、This much がO、the postmodern skeptics of science がS、have がV、going ~ がCで、全体は OSVC という語順の倒置文です。倒置を戻すと、

The postmodern skeptics of science have this much going for them.

skeptics of ~ で「~について懐疑的な人」。この文では、You have O going for you(Oがあなたにとって利点・後ろ盾である)という熟語が使われています。直訳すると、

「ポストモダンの考え方をする人によく見られる、科学に対して懐疑的な態度をとる人々は、これだけの後ろ盾は持っている」


Science, then, trades on certain articles of faith like any other form of knowledge. This much, at least, the postmodern skeptics of science have going for them [...].

「ということは、他のあらゆる形の知と同様、科学も(完全に中立的、客観的ではあり得ず)特定の思想に基づいているのである。
ポストモダンの考え方をする人によく見られる、科学に対して懐疑的な態度をとる人々も、少なくともこの点では正当だ

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