英語の音いろ

映画、TVドラマ、洋書などの英語を、文法や構文そしてニュアンスの視点から解説します。

2020年06月


イギリスの文学批評家、文化理論家テリー・イーグルトンによる Hope without Optimism(2015年)から。現代において、現実を見つめながら希望を持つということはどのようなことなのかを考察する本です。


Hope Without Optimism
Terry Eagleton
Yale University Press
2017-06-02



以下は、キリスト教が hope というものをどのように捉えているかについての記述です。be grounded in ~ で「~に基づいている」、mercy は「慈悲」。



Hope for Christian belief is grounded in God's love and mercy, and these are indeed seen as certain. They belong to what it is for God to be God.

Terry Eagleton, Hope without Optimism, p. 83



<解説>







Hope for Christian belief is grounded in God's love and mercy, and these are indeed seen as certain.

「キリスト教の信仰においては、hope というものは神の愛と慈悲に基づいており、実際、神の愛と慈悲は『確実なもの』とみなされている」


They belong to what it is for God to be God.

what S is で「Sというもの」。it は形式主語で、本当の主語は for God to be God(神が神であること)。この for は不定詞の意味上の主語を示しています。

「それら(=神の愛と慈悲)は、神が神であることに属している」

「(キリスト教においては)愛と慈悲は、神を神たらしめるものの一部である(とされている)」



オスカー・ワイルドの小説『ドリアン・グレイの肖像』から。


The Picture of Dorian Gray (Penguin Classics)
Wilde, Oscar
Penguin Classics
2003-02-01



ドリアンが婚約者に冷酷な仕打ちをした夜、自宅に戻った彼は、自室に置いてある自分の肖像画の美しい口元に冷たい影が生じているのに気づきます。そして、その不思議な現象に興味を持つと同時に恐れも抱きます。以下は、そのときのドリアンの心の変化を描写した文章の一部です。

こちらの記事で紹介した文の少し後に続く文です。また、ドリアンの仕打ちの具体的な内容はこちらで紹介しています)

Sibyl Vane はドリアンの婚約者、it は「肖像画の口元に冷たい影が生じたこと」を指しています。



One thing, however, he felt that it had done for him. It had made him conscious how unjust, how cruel, he had been to Sibyl Vane.  

Oscar Wilde, The Picture of Dorian Gray, p. 93


<解説>







One thing, however, he felt that it had done for him.

この文は、He felt that s v o. における o を文頭に移動した倒置文で、one thing は done の目的語です。倒置を元に戻すと、However, he felt that it had done one thing for him.。

SVO を OSV に倒置した文はよくありますが、「S V that s v o」を「o S V that s v」に倒置した文は比較的珍しいと言えます。

「しかし、ある1つの効果をそれは自分にもたらしたと彼は感じた」


It had made him conscious how unjust, how cruel, he had been to Sibyl Vane.

「自分が Sibyl Vane に対していかに不当だったか、いかに残酷だったかを、それは彼に意識させたのだった」


イギリスの文学批評家、文化理論家テリー・イーグルトンによる Reason, Faith, and Revolution(2009年)から。





以下は、クリスチャンにとってキリストの復活とはどのようなものなのかを述べる文章の一部です。resurrection は「キリストの復活」、lurk は「ひそむ」、arm O with ~ で「Oに~という装備を与える」



The resurrection for Christians is not a metaphor. It is real enough, but not in the sense that you could have taken a photograph of it had you been lurking around Jesus's tomb armed with a Kodak.

Terry Eagleton, Reason, Faith, and Revolution, p. 119



<解説>







The resurrection for Christians is not a metaphor. It is real enough,

「クリスチャンにとってキリストの復活とは比喩的なものではない。それは真実といってよいものである」


but not in the sense that you could have taken a photograph of it had you been lurking around Jesus's tomb armed with a Kodak.

in the sense that S V で「SVという意味で」。

had you been ~ →「if S had + 過去分詞」(仮にSが~していたなら)と同等の意味を「had S + 過去分詞」で表すことができます。「had S + 過去分詞」の方がフォーマルな言い方。

armed with ~ は、arm O with ~(Oに~という装備を与える)の過去分詞を使った分詞構文です。

本来固有名詞であるはずの Kodak に不定冠詞の a がついているのは、ここでは Kodak が「コダック製のカメラ」という意味で一般名詞として使われているためです。

「しかし真実といっても、コダックのカメラを持ってキリストの墓の近くに潜んでいたらキリストの復活の写真を撮ることができたはずだという意味でのことではない」


オスカー・ワイルドの小説『ドリアン・グレイの肖像』から。


The Picture of Dorian Gray (Penguin Classics)
Wilde, Oscar
Penguin Classics
2003-02-01



以下は、前回の記事で紹介した文のすぐ後に続く文で、前回と同じく、貴族の青年であるドリアン・グレイが、退廃的な考えに染まりながらも、社交界においては貴族としての振る舞いを保っていた様子を描く文章の一部です。文頭の His はドリアンのこと、settling はここでは preparing とほぼ同じ、Lord Henry はドリアンの友人です。




His little dinners, in the settling of which Lord Henry always assisted him, were noted as much for the careful selection and placing of those invited, as for the exquisite taste shown in the decoration of the table, [...].  

Oscar Wilde, The Picture of Dorian Gray, p. 125


<解説>







His little dinners, in the settling of which Lord Henry always assisted him, were noted as much for the careful selection and placing of those invited, as for the exquisite taste shown in the decoration of the table, [...].

which は His little dinners を先行詞とする非制限用法の関係代名詞で、関係代名詞の節が始まるのは in から。in the settling of which Lord Henry always assisted him の部分全体が関係代名詞の節です。元になっているのは、

Lord Henry always assisted him in the settling of ~
(Lord Henry は~の準備において常に彼に手を貸した)

という文。the ~ing of ... で「...を~すること」。「~ing」と「...」の間には、VO の関係が隠れています。

be noted as much for A as for B で「Bのためと同じくらいAのために注目される」。

the careful selection and placing of those invited の careful は、selection と placing の両方を修飾しています。placing の ing は上と同じ 
the ~ing of ...(...を~すること)の使い方。place O の基本の意味は「Oを(ある場所に)置く」で、ここでは「テーブルでのOの席順を決める」という意味です。


His little dinners, in the settling of which Lord Henry always assisted him, were noted as much for the careful selection and placing of those invited, as for the exquisite taste shown in the decoration of the table, [...].

「彼が催すちょっとした晩餐会(その準備にあたっては Lord Henry が常に彼に手を貸した)は、テーブルの装飾に示されるこの上なく優れたセンスのためにも注目されていたが、それと同じくらい、細心の注意を払ってなされるゲストの選別と席順の決定によっても注目されていた」



オスカー・ワイルドの小説『ドリアン・グレイの肖像』から。


The Picture of Dorian Gray (Penguin Classics)
Wilde, Oscar
Penguin Classics
2003-02-01



以下は、貴族の青年であるドリアン・グレイが、退廃的な考えに染まりながらも、社交界においては貴族としての振る舞いを保っていた様子を描く文章の一部です。he はドリアンを指しています。




Once or twice every month during the winter, [...], he would throw open to the world his beautiful house and have the most celebrated musicians of the day to charm his guests with the wonders of their art.  

Oscar Wilde, The Picture of Dorian Gray, p. 125


<解説>







Once or twice every month during the winter, [...], he would throw open to the world his beautiful house and have the most celebrated musicians of the day to charm his guests with the wonders of their art.

would は「過去の習慣」を表す用法です。

throw open to the world his beautiful house においては、open to the world がC、his beautiful house がO。これは、throw O C(OをCの状態にする)のOとCを入れ替えたものです。

「冬には月に1、2回、彼は自分の美しい家を皆に開放し、当代随一の音楽家を招き、彼らの演奏の素晴らしさでゲストを酔わせるのだった」

↑このページのトップヘ