前回と同じ、イギリス人ライターによるスイスを紹介する本から。





SBB(スイス国鉄)は、人々ができるだけ車より鉄道を使うように上手に誘導していることについて書かれた文章です。the の使い方に注意してみてください。



[SBB] entices people off the road and into trains. Going to the Madonna concert in Zurich or the cup final in Bern? Then your ticket includes the train trip there, so no need to take the car. What a great idea that is!  

Diccon Bewes, Swiss Watching: Inside the Land of Milk and Money, p. 243


解説>







[SBB] entices people off the road and into trains. Going to the Madonna concert in Zurich or the cup final in Bern? Then your ticket includes the train trip there, so no need to take the car. What a great idea that is!

「SBB(スイス国鉄)は、人々が車ではなく鉄道を使うように仕向けます。マドンナのコンサートを聴きにチューリッヒへ? それともサッカーの決勝戦を観にベルンへ? どちらにしても、チケットにはそこに行くための列車も含まれています。だから車を使う必要はありません。(コンサートチケットやスポーツ観戦のチケットに列車のチケットも含めるのは)なんて素晴らしいアイデアなのでしょう!」 

Madonna concert(マドンナのコンサート)と cup final(サッカーの決勝戦)に、それぞれ定冠詞の the が付けられています。the は、すでに出てきたものに付けるのが基本の使い方ですが、この文章の場合、Madonna concert も cup final も、出てくるのはこれが初めてです。ではなぜ the が使われているのでしょうか。

スイスに住んでいる人の場合、「チューリッヒのマドンナのコンサートに行く」ことも、「ベルンでのサッカーの決勝戦を観に行く」ことも、十分に一般的な行動です。たとえ自分は行かなくても簡単にイメージできるような、多くの人がする行動と言えるでしょう。

英語では、「十分に一般的なこと」の場合、存在していると想定して、あるいは、起こると想定して the を使うことがあります。読者が上の文章を読んだ時点で、マドンナのコンサートがチューリッヒであるかどうか、ベルンでサッカーの決勝戦があるかどうかは著者にも全く分かりませんが、十分に一般的なことなので、勝手にあると想定して the を使っています。